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砂時計の気まぐれ倉庫

過去にどこかに書いた文章の気まぐれな再録が中心です。

ポーもどき

(2006年2月28日にアップしたmixi日記の再録です。時事ネタは古びるという例)

 ある日のこと、私とデュパンは、私たちの部屋で気怠い午後のひとときを過ごしていた。
 二人とも長い間口を開かず、聞こえるものといえば点けっぱなしのテレビの音だけだったのだが、まったく突然に、デュパンがこう話しかけてきた。
「やめておいたほうがいいと思うね。君にパチンコは向いてないよ。以前だってスッてばっかりだったじゃないか」
「たしかにそうだけどね……」と返事をしかけた私は、自分が心の中で考えていたことに友人が話を合わせた不思議さに気づき、ひどくびっくりした。
デュパン、いったい君は、どうやって僕の心の中を覗くことができたんだい?」
荒川静香さ」と友は答えた。「君がしばらく遠ざかっていたパチンコを再びやってみようという気にさせたのはね」
荒川静香だって?」
 たしかにさっきテレビの番組で金メダルを獲った荒川選手の特集が流れていたが、それが私のパチンコとどう繋がると言うのだろう。
「さっきのテレビの中で何度も『イナバウアー』という言葉が出ていただろう。サッカーファンの君なら、この言葉から『ベッケンバウアー』を連想するに違いないと確信していた。
 そのうち、君が押入れに目をやるのが見えた。あそこには君が愛用しているSMグッズが入っていて、その中には手錠もある。だから僕は、君が『ベッケンバウアー』から更に『別件逮捕』という言葉に行き着いたのだな、と思ったわけさ」
 自分でも意識していなかった思考の流れを見事に言い当てられて驚いている私を尻目に、彼は続けた。
「その直後、君は怒りと悔しさが入り混じった表情になった。先日、ネズミ捕りに引っかかったことで憤懣やるかたない、という話をしたばかりだからね。『別件逮捕』から警察の姑息なやり口に考えを巡らせてそのことを思い出したのだろう。
 そして今度はカレンダーに視線を向けてため息をついた。給料日まではまだまだ日数があるし、スピード違反の反則金を払ったのはかなりの痛手だと君が思っているのはよく分かったよ。
 で、次の瞬間、君は何とも言えない奇妙な笑顔を作ってみせた。おそらく無意識なんだろうけどね。あれはかつて君がよくやっていたヨン様スマイルの物真似だ。あの番組のブームからは大分経っている今、君にその物真似をさせた理由は一つしか思い当たらない。最近話題になっていた「ぱちんこ冬のソナタ」が頭に浮かんだのだ。
 だから僕は、君が給料日まで食い繋ぐためにパチンコで稼ごうと考えていることを知り、お節介にも忠告をさせてもらったというわけさ」